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[84]《第19回演奏会パンフレット挨拶文》(2022/09/28 21:18:54)
今回のプログラム前半ではバロックから現代の音楽まで、ドイツの合唱音楽を辿る選曲をしました。間違いなくすべての作曲家がバッハに憧れと尊敬を持ち、その音楽から多くを学びました。バッハからシェーンベルクまでの約200年、脈々とその系譜は引き継がれたのです。
しかしこれは単に伝統を受け継いだという類のものではありません。それぞれの作曲家には極めて突出した音楽の個性があり、それぞれの時代背景の中に生きる一人の人間として生命を削り、この世に普遍的な音楽を生み出したのです。現代音楽の作曲家シェーンベルクは第一次世界大戦の凄まじい破壊を目の当たりにして、やがて平和な時代が訪れることを信じ、「地上の平和」を書いたとされています。今から実に100年も前のことです。
今回、信長貴富さんに新しく曲を書いていただきました。これは私たちの積年の願いでした。言葉の向こう側に対する視点がぶれず、その眼差しを音によって語らせることのできる屈指の作曲家です。優れた詩の中で刻まれる言葉は時代や国を超え、私たちの傍らに寄り添ってくれます。信長貴富という芸術家の精神を通してそこで語られる音群は私たちの胸に迫ります。すべては「ひとつ」なのだと。
今を生きる私たちには、この時代の中だからこそできる演奏がある。そのことをこの愛すべき新しい曲たちに教えられた気がします。歴史が零す涙のように美しい音楽が今日ここに産み落とされる瞬間を皆様と共有できることに感謝し、精一杯の演奏でお応えしたいと思います。
2022年9月24日(土)
クール シェンヌ主宰・音楽監督 上西一郎
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