昭和58年1月、母校の音楽室にコーラス部の卒業生が集まった。いわゆる「OB合唱団」を発足するためである。母校のコーラス部は混声だったのだが、集まったのは男ばかり8名ほどだったと記憶している。練習の方針や練習会場について相談したのだろうか、最後に今年の合唱連盟の課題曲にもなっている「水上」を女声なしで歌った。それは思い描いていたものとは大きくかけ離れた残念なスタートとなった。今からちょうど40年前のことである。 高校時代は合唱漬けの毎日で、朝練(来るのは男子だけ)、昼練(弁当食べるだけ)はもちろん、春休みには男声のみの自主合宿を計画するほどのハマりようで、特に3年生の時の県コンクールは初優勝を目指して、まさしく青春のすべてをそこに懸けて挑んだ。が、結果は2位。男子全員、会場内で大泣きした(後日のNHKの録音放送で最後の全員合唱と重なって低音の嗚咽がきれいに収録されている)。結果的にはこの時の悔しさが卒業後の合唱団創立につながった。しかし今考えてみればこんなラッキーな2位はなかなか無いのかもしれない。
本日のプログラムは初演作品を除いてすべてシェンヌにとって2度目の演奏となる。前回に消化し切れなかった事は、仮に演奏力が高まっていたとしても次々に新たな課題が浮き彫りになり、今回もやはり満足な演奏に繋げられない。まだまだ未熟であることを痛感しつつも、しかしそれが名曲といわれる所以なのだと改めて納得することとなった。楽譜としての構築の絶対性がその音楽の泉を溢れさせる。こちらが幾ら鍛えてもその泉は汲み尽くすことをさせてはくれない。登頂を拒み続ける山の頂のように。しかしそこにこそ我々が合唱を続ける理由があるのだと思う。40年前の創団のきっかけはあまりにも稚拙で大いに恥じ入るが、この年月が音楽に向かう正しい道筋に気づくために必要だったと思えば、これまでの失敗の数々も意味あるものだと、今では自信をもってそう言える。 これまでシェンヌで歌い、活動を支え続けてくれたすべての仲間と、今日ご来場いただいた皆様からの応援に心から感謝申し上げ、精一杯の演奏でお応えしたいと思う。
2023年6月24日(土) クール シェンヌ主宰・音楽監督 上西一郎
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